
日銀によると、2016年の不動産向け融資が12兆円を超え、過去最高の融資額を記録した。その背景の一つには、相続税対策のアパート建設がある。ミニバブルが起きているが、地方の人口減社会には似つかわしくない状況であり、体力の弱い地域金融機関が主役のため、金融庁や金融界からも不安の声が上がっているのだ。大手銀行首脳は「アメリカのサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)問題の日本版になりかねない」と話している。
2016年の全国における不動産融資は、前年比15%アップの12兆2806億円となり、バブル期を上回るこの結果は統計データのある1977年以降で最高となった。
アパート融資も、前年比21%アップの3兆7860億円と2009年の統計開始以来、最高に達している。貸家の新設着工件数も41万8543件と8年ぶりの高水準だ。
理由の一つは、2015年に行われた税制改革で相続税の課税対象が広がったこと。アパートを建てると畑や更地などより課税時の評価額が下がるため、地主らが相続税対策として一斉にアパート建築に走ったのだ。マイナス金利で貸出先を模索する金融機関も融資し、東京都郊外だけでなく東北や山陰といった地方にも異様なアパート建築ラッシュが広がった。
しかし、入居需要に伴わない供給のため、「空室リスク」がますます高まっている。
埼玉県の羽生市では市内の空室率が10年でほぼ倍増したため、2015年にはアパートの建築地域を従来よりも制限する規制を出した。関西や中部圏からも同じ悩みを持つ自治体の視察が相次いでいる。
融資実態も不透明で、地方のとある大家は、不動産業者の紹介で2つの都市銀行から数億円を借りたが、事業性などの質問はほぼなかったと話す。中長期の入居見込みすら確認していない可能性が高いだろう。
金融庁は、昨年のレポートで金融システムの健全性に影響を及ぼす可能性があるとして、「アパート融資」を指摘。昨年12月に実態把握のため融資残高を伸ばしている地方銀行を抽出、詳細な契約内容の提出を求めてリスクの把握を急いでいる。
相続税対策のためのアパート乱立が、金融庁から問題視される現在。「空室リスク」も考えずにアパート建設をすることが、本当の得策と言えるのだろうか?低金利時代、融資を上手く活用した上で、需要と供給のバランスを考え、空室を生まないような物件選びを行いたい。