
去年の台風19号を教訓に、国土交通省は大雨が予想された場合に、ダムにたまっている水の量を「事前放流」で減らし、その後に流れ込む水を受け止めて洪水を防ぐ対策を進めています。
国土交通省の水管理・国土保全局関係の予算決定概要によりますと、
令和元年の台風第19号や昨年 7 月の豪雨など、気候変動に伴い頻発・激甚化する水害・土砂災害や、切迫する大規模地震に対し、人命を守るとともに壊滅的な社会経済的被害を回避し、将来にわたり安全で活力のある地域をつくるため、新たな技術を最大限活用しながら、整備効果の高いハード対策と住民目線のソフト対策を総動員し、 『水防災意識社会』の再構築を推進
するため下記のようなダムの施策を行うことしています。
ダムの建設には多くの予算と長い建設期間が必要で、建設に適した場所も限られます。そのため政府は既存のダムを有効活用して大雨への備えを強化する検討を進めています。
「事前放流」は主に「多目的ダム」といわれる洪水調節の機能があるダムで行われていますが、水害が相次ぐ中、国土交通省は本来はこうした機能を持たない「利水ダム」でも進めることになりました。
<利水ダムも含めた既設ダムの徹底活用>
1.利水ダムの事前放流に伴う補填制度の創設
利水ダムにおいて事前放流を行う際、利水者の損失リスクの軽減を図り、治水協力を促進する観点から、利水者に対し特別の負担を求める場合における損失の補填制度を創設する。2.利水ダムの放流設備等改造に対する補助制度の創設
利水ダムの治水協力を促進するため、利水者が事前放流を行うために実施する放流設備改造等に対し、補助する制度を創設する。3.ダム再生計画策定事業の充実(社会資本総合整備)
都道府県がより効果的なダム再生計画を策定するために、ダム再生計画策定事業の対象ダムの範囲を追加する等、制度の充実を図る。4.ダム再生事業における発電の補償制度の拡充
ダム再生事業の実施に際し、発電量の減少を極力防止するため、他ダム(水系の異なる場合も含む)において同等の発電機能を確保する現物補償の導入促進を図る。
(引用;国土交通省 https://www.mlit.go.jp/page/content/001321115.pdf )
【1】についての事前放流について、発電や飲み水などへの利用が目的の「利水ダム」は全国に898ありますが、「事前放流」をしたあとに水量が戻らなかった場合、停電や断水につながって損失が出る可能性もあり、去年の10月現在で7つのダムでしか実施体制は整っていません。
このため、国土交通省は来年度から、損失が出た場合にかかる費用の一部を補填する制度を設けることになりました。さらに構造的に事前放流できない「利水ダム」については、放流管の設置やゲートの改修にかかる費用の一部を補助する制度も設けることにしています。
また、【4】については電力会社などが水力発電用として確保しているダムの容量を減らして「洪水対策」向けを増やした場合に、減らした分の発電容量を別のダムに付け替えることができる仕組みをつくります。電力会社の収益力を落とさずにダムの治水能力を強化する新たな制度によって、頻発する大雨災害に備えます。
発電の容量を減らして治水用に振り替える方法が大雨対策の有力な手段ですが、課題があります。その課題としては国が力を入れる再生エネルギーである”水力”発電の能力減少になる可能性もあるほかに、発電の能力低下は、電力会社の収益力の低下に直結するというものです。
治水用に振り向けた場合に金銭で補償する仕組み自体はあるのですが、電力会社にとっては金銭補償よりも発電容量を確保できるほうが長期的な収益機会の確保につながるため国交省は洪水対策で減らしたダムの発電容量を他のダムに付け替えることで「現物補償」する仕組みを検討するとのことです。