3月27日の日経新聞に大規模修繕に関する問題の記事が掲載されていたので、ご紹介したい。
マンションの修繕工事の財源となる「修繕積立金」の問題が積みあがっている。
日経新聞は、区分所有者が支払う修繕積立金の水準を独自に調査。その結果、全国の物件の75%が国の目安を下回っていたことが分かった。
このうち約900棟をタワーマンションが占め、8割弱が未達だった上、国の目安の半分に達していない物件も1割あった。
国土交通省は2011年に修繕積立金の指針を策定。30年間の均等払いで、新築入居時に払うことが多い修繕積立基金はゼロで試算している。
① 15階建て未満は1平方メートルあたり月178~218円
② 20階建て以上のタワーマンションは月206円
日経は、不動産情報会社グルーヴ・アール(東京・港)の協力で全国の物件の1割にあたる1万4千棟の修繕積立金を分析。基金の実勢平均額を加え独自に試算すると、約1万500棟が国の目安を下回った。
マンションの劣化を防ぐには12~15年ごとの大規模修繕が欠かせない。
1回目は外壁塗装などがメインだが、2回目以降は給水・排水管や昇降機の更新に移り、工事費が膨らむ。
積立金が足りないと適切な修繕ができず、資産価値が落ちる可能性が高まる。
適切な維持管理には引き上げが必要だが、住民合意は簡単ではない。積立金の増額には管理組合の総会で過半数の出席と賛成が必要。
管理規約の変更を伴う増額は、所有者の4分の3以上の同意が求められる。
特に大都市に多いタワーマンションは、増額に不安がある。
不動産コンサルティング会社の執行役員は、「世帯数が多く、住民の世代も所有目的もバラバラな大規模物件ほど、増額の合意形成が難しい」と見ている。実際、築20年以上で国の基準に達していないタワーマンションの割合は68%にのぼる。
国交省の指針作りに関わった東洋大の秋山哲一教授は「タワーマンションは築30年以上が少なく、機械設備や配管工事の経験に乏しい。費用増リスクを踏まえ、修繕計画を見直すべきだ」と警鐘を鳴らす。
日経の調べによると、築20年以上の物件のうち、56%が国の基準に届いてないことが分かっている。
国交省マンション政策室によると、修繕工事費は建物の立地や形状、設備内容に左右されるので、国の目安を下回っても「すぐに不適切とは判断されない」そうだ。
これまでは新築時の修繕積立金は安く設定し、段階的に値上げする計画を立てることが多かったが、東京カンテイ(東京・品川)の上席主任研究員は「年齢とともに住民の所得が増え、段階的な増額が許容されるという前提は崩れてきた」と、低成長・高齢化時代の限界を強調した。
マンションの世帯主が60歳以上の比率は1999年度の26%から2013年度は50%に高まった。(国交省)
昨年、東京都八王子市のあるマンションは8年がかりで増額を実現したが「高齢者から『値上げは勘弁して』との声が多く上がった」(担当したマンション管理士)。
埼玉県川口市にある築20年近い55階建てマンションは、1平方メートル当たりの修繕積立金が月93円。
昨年2月に終えた工事では屋上の防水加工や壁面修復などに12億円を投じたが、2034年に予定している次の工事は資金が不足する恐れがある。管理組合は積立金を段階的に上げる方針だが、合意形成の壁は高く、理事長は「丁寧に説明していくしかない」と話した。
新築時の修繕積立金を高く設定すると販売の機会損失になりかねないため、不動産会社も安く設定しがちなのだが、工事費が足りなくなれば借り入れで穴埋めするか、一部工事の延期や削減でやり繰りするしかなくなってしまう。無駄な工事を抑える努力も欠かせないが、適切な修繕に手が回らなくなると「マンション老朽化の速度が上がり、景観悪化や防災機能の低下を招く。周辺の地価にも悪影響が及ぶ」と、日大の中川雅之教授は危惧している。