「かぼちゃの馬車」が120棟も集中する足立区の実態
- 2018/9/26
- ニュース

静謐な住宅街にたたずむ1棟のアパート。看板には、物件名を隠すかのようにテープが張られ、そのすぐ横には殴り書きで別のアパート名が掲げられている。
テープ越しに、うっすらと透けシェアハウス「かぼちゃの馬車」(スマートデイズが展開)が区内全域に林立する。独自の取材によれば、同区内には少なくとも83棟のかぼちゃの馬車が存在している。これに、スマートデイズのシェアハウスの別ブランドである「STEP CLOUD(ステップクラウド)」も加えれば、120棟にまで膨れ上がる。
700人以上のオーナーに融資元のスルガ銀行も巻き込んだ社会問題へと発展したかぼちゃの馬車であるが、スマートデイズは5月に破産手続きの開始が決定した。スルガ銀行も被害弁護団との間で、交渉が続いている。
しかし、これで一件落着とは到底ゆかない。シェアハウスが大量供給されたことで、市場には歪みが生じている中で、残されたオーナーたちは、依然残っている建物自体のローンを返済すべく物件を稼働させなければならない。道のりは険しいだろう。
東京メトロ千代田線、北綾瀬駅から程ない所にかぼちゃの馬車が建っている。個室の面積は8平方メートル。決して広くはないが、築3年で家賃は月に1万3000円。周辺の木造アパートの賃料相場が月5万円程度なのを考えれば、あまりに安い賃料設定だ。
賃料の暴落はこの物件だけではない。足立区内の別のシェアハウスの家賃は月に2万円。現状では満室であるもののオーナーは不安を隠せない。元々スマートデイズから月に6万円の家賃保証を受けていたからだ。
「満室ならば多少、家賃を上げてもよいのではないか」との問いに、そのオーナーは「周辺にはシェアハウスがたくさん建っている。家賃を上げた途端に入居者が出ていってしまいそうで、怖くて上げられない」と本音を語った。
このシェアハウスを建てたのは、スマートデイズ同様にシェアハウスのサブリースを手掛けていたゴースを残す結果となった。
スマートデイズやゴールデンゲインが展開していたビジネスモデルは、オーナーに土地を斡旋し、シェアハルデンゲイン。今年5月に破産開始決定を受けた。やはり足立区内に数多くのシェアハウウスを建てさせ、それを一括で借り受け、入居者募集や管理を請け負うサブリース。本来は入居者からの手数料や家賃の一部、管理費で収益を上げるのがスジである。
だが実態は、土地の売却価格や建物の建築費を不当に水増ししてオーナーに請求し、差額を土地の販売会社や建設会社からキックバックさせることで会社を支えていた。
本業であるはずのアパートは稼働率が十分に高まらず、オーナーに家賃を支払うために新たなアパート建設を繰り返す自転車操業に陥った。その結果、市況を度外視したアパートが乱立し、需給バランスは崩壊した。今、ツケはすべてオーナーに回ってきている。
■管理会社もシェアハウスには難色
スマートデイズ破綻による余波は、家賃の下落だけではない。
今年初め、足立区を中心にアパート管理を行う会社に、若い夫婦が相談にやって来た。話を聞くとシェアハウスを2棟保有しているが、管理会社からの送金が止まってしまったため、会社を変えたいという内容だ。それらのシェアハウスとは、もちろん「かぼちゃの馬車」。
だが、この会社は管理を引き受けなかった。担当者は「シェアハウスは家賃設定が難しく、外国人労働者の宿舎にするなどの対応を取らないと、稼働率は高まらない。」と語った。今後は依頼があっても、引き受けないようにしている」と本音を漏らした。
かぼちゃの馬車を管理していたスマートデイズが破綻したことで、オーナーたちは新たな管理会社探しを余儀なくされた。冒頭のように看板が掛け替えられた物件は、管理会社が変わった証しだ。しかし、シェアハウスの管理には消極的な会社も多い。
練馬区で「かぼちゃの馬車」を運営している男性はスマートデイズの破綻を受けて、シェアハウスの運営実績がある大手ハウスメーカーのグループ会社に管理を依頼したが、物件を見た後に断られた。
「(開閉速度を調整する)ドアクローザーがないこと。防火設備が不十分なことで、断られたのではないか」とオーナーの男性は考えている。
■かぼちゃの馬車オーナーたちの受難は終わらない
今こうした「管理会社難民」の受け皿となっているのは、シェアハウスの管理を専門とする会社だ。イエノルール(本社渋谷区)は、約30棟のスマートデイズ物件を管理している。
だが、幸運にも管理を引き受けてもらえたとしても、家賃は減額になるケースがほとんどだという。「管理を引き受けるまで、物件の瑕疵があるかどうか分からないリスクがある。シェアハウス自体の数も多く、数日おきに価格競争になる場合もある」からだ。(イエノルールの岩田昌之・代表取締役)。
足立区でかぼちゃの馬車を運営している(イエノルールが管理)男性オーナーは、「スマートデイズ時代は共益費も含め6万4000円だったが、周辺の家賃相場を考慮した結果、現在は4万円にまで下がってしまった」と不満を隠せない。
こうした管理会社難民の中には、スマートデイズの旧経営陣が関与していたり、ゴールデンゲインの子会社だった管理会社に漂着する者も多いという。こうした会社に管理を依頼しているオーナーの多くは「入居率には満足している」と話すが、無理な事業スキームで破綻した会社の遺伝子を受け継ぐという点で一抹の不安がよぎるのである。
建設会社や銀行がやり玉に挙がる一方、真にオーナーを苦しめるのは、自らの資産であるはずの物件というこの現実。足立区にあふれるかぼちゃに象徴される、あまりにも皮肉な実態だ。