首都圏郊外、団塊引退で所得減

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2016年と11年の市町村別の1人当たり所得の変化を首都圏で調べてみると、景気拡大期にあって所得増が目立つが、外縁状に所得減の街が広がる。通勤電車の始発駅で「座って通勤できる」とかつて人気を集めた郊外の自治体に多く、少子高齢化などにより所得が減少しているためだ。

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茨城県取手市は11年から16年にかけて1人当たりの所得が3万7000円(1.2%)減った。「給与水準の高い団塊の世代が定年を迎え、併せて、15~64歳の生産年齢人口が減少傾向にある」(市課税課)という。首都圏郊外、団塊引退で所得減

 

市の玄関口はJR常磐線取手駅。同駅を始発、終着とする快速列車が多く、都心には多少距離があっても座って通勤しやすく人気があった。

 

昭和40~50年にかけて公営・民間団地の建設が相次ぎ団塊の世代を中心に「著しい人口増加がみられた」(取手市)。しかし少子高齢化と職住近接が進み、そのにぎわいは今失われつつある。

 

取手駅から東へ徒歩15分にある取手井野団地もその一つ。8月の平日お昼時。暑さもあったが、団地内を歩く人はまばらで公園にも子供が遊ぶ姿はない。2間以上の間取りで家賃は4万円台が中心だが、空室と見られる部屋も目立っている。

 

東京都青梅市は4万7000円(1.5%)減った。JR青梅駅は都心までの直通列車の始発駅だが、主力の製造業で大手や中堅の撤退が相次いでおり、働く世代を中心に市外への転出が目立つ。

 

市が10年から15年の転出、転入状況を5歳ごとに分けて調べたところ、15~19歳から50~54歳まですべて転出超過だった。25~29歳で432人、30~34歳で627人と特に働き盛りの世代が市を去る傾向であった。

 

東芝が17年にかつては主力のノートパソコン工場だった青梅事業所を閉鎖した。

 

中小製造業も「受注量が増えて工場を拡張しようにも用地がなく、市外に転出する従業員100人前後の中堅クラスの企業が相次いでいる」(青梅商工会議所)。山がちな地形の市内では工場拡張、新設に必要なまとまった土地を新たに確保しにくいからだ。

 

埼玉県久喜市にある東武鉄道の久喜駅。東京メトロ半蔵門線へ乗り入れる通勤列車の始発駅だ。東京・大手町までは急行で1時間20分ほど。

 

人口は約15万4000人。11年から16年は微減にとどまったが、高齢化で生産年齢人口(15~64歳)が減り、逆に65歳以上の高齢者が増えた。年収の少ない年金受給者が増え、所得は5万4000円(1.7%)減少した。

 

東京メトロ新都心線に乗り入れる列車の始発駅となることが多い西武池袋線・飯能駅がある埼玉県飯能市も1万9000円(0.6%)の減少。市は「市内在住の現役世代が増えない限り減り続けるだろう」と悲観的だ。

 

千葉県では市原市、袖ケ浦市で所得が低下。主要産品の石油化学製品は市況の低迷や国内の需要減少が響き、工場を置くメーカーの多くで利益が大きく減ったり、赤字になったりするという事例が相次ぐ。従業員の給与水準も伸び悩み、地域の所得減につながったようだ。

 

神奈川県では県西部、山北町の1人当たり所得が10万7000円(3.6%)減少。ここも生産年齢人口の減少が原因だ。町では「町の面積の9割が山林で家を建てられる立地が限られている」ことが理由と分析している。

 

注)1人当たり所得を総務省の「市町村税課税状況等の調」をもとに集計した。年収から各種の控除額を差し引いた所得額を、住民税所得割の納税義務者数で割って算出した。

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