不動産投資、細る融資 スルガ銀問題の余波

街イメージ図

個人による不動産投資ブームにストップがかかっている。スルガ銀行による不適切融資問題などの影響で投資用不動産向け融資利用するのが難しくなったからだ。物件価格は2018年に入って下落に転じた。個人の貸家業への融資残高は約23兆円。資金の流れが逆回転するような事態になってしまえば、思わぬ余波が広がる危惧がある。

 

■ローン審査厳しく

 

「(投資用不動産向け)融資審査はここ最近、連戦連敗だ」「(スルガ銀で問題になった)シェアハウス向け物件などは審査以前の段階で断られてしまう感覚がある」。不動産投資で生計を立てている向田博さん(37(仮名))は語る。

 

スルガ銀問題を受けて、金融庁が不動産への過剰な融資を抑制する姿勢に転じた。金融機関が審査の厳格化に傾いたためだ。日銀によると、個人の貸家業向けの新規融資は18年4~6月で5603億円と前年同期比で22%減少。ピークの16年7~9月(1兆889億円)比ではほぼ半減し、ブーム初期の12年4~6月(4719億円)以来の水準に落ち込んだ。

 

野村不動産アーバンネットが5月に実施した投資家アンケートでは、金融機関の融資状況に「変化を感じる」と答えた人のうち、「審査が厳しくなった」との回答は88%にのぼり、前年調査より約22ポイント上昇した。

先細る融資グラフ

12年ごろから盛り上がり始めた今回の不動産投資ブームだが、第2次安倍政権の発足後、日銀は強力な金融緩和に踏み切った。金融機関の融資姿勢は緩和傾向、借り入れで膨張した個人マネーが不動産投資に向かった。不動産投資は資金の8、9割を融資でまかなうことも多く、金融機関の姿勢が厳しくなれば活動の鈍化は避けられない。

 

「不動産投資は当分お休みです」。同分野に関する著書も多く、「プロ大家」として有名な森本隆さん(40(仮名))は18年4月以降、新規の投資を止めている。

 

13年に本格参入し、主に賃貸マンションを1棟単位で購入してきた。融資が潤沢に得られた環境を生かし、過去5年間の投資額は累計で約60億円にのぼる。そんな森本さんが警戒するのは、不動産相場にも変調の兆しがあるからだ。

 

■6年で6割上昇

 

不動産投資情報サイト運営の健美家(東京・港)によると、1棟アパートの平均価格は18年7~9月で6613万円と、1~3月(6882万円)をピークに2四半期連続で下落したという。過去6年で約6割上昇し、過熱感が指摘されていたアパート価格。「今、下落局面を迎えている」と健美家の倉内敬一社長は話す。

下落するアパート賃料グラフ

「もしかして私、だまされていますか」。不動産投資家の社会人サークルで代表を務める鈴木隆司さん(41(仮名))には最近こんな相談が舞い込んでいる。

 

都内に住む男性は17年に静岡県内で約1億5000万円の物件を購入。不動産投資の経験は浅かったが、不動産業者が「入居率も高くおすすめ」などと言っていたので、インターネットで周辺の写真を見ただけで購入を決めたという。

 

その後、退去が相次いで収支は赤字に転落。初めて訪れた現地は駅から遠く、不便さに驚いた。「業者の関係者が一時的に入居するなど偽装していたのでは」とも感じるが、はっきりとした証拠もなく、多額の借金に不安を募らせる。

 

リーマン危機前の04~07年ごろにも不動産投資は盛り上がった。ただ今回は金利低下の影響で、知識が乏しかったり、返済能力が低い個人も多く参入しており、「破産などのリスクは前回のブーム時より高い」と不動産コンサルティング会社、さくら事務所(東京・渋谷)の長嶋修会長は指摘する。

 

銀行側にも影響は跳ね返りかねない。ある大手銀では「需要がピークアウトすれば、まず地方から家賃が下がるだろう」などとして、地方物件向けのローンは焦げ付きリスクが比較的高いと警戒する。地価が全国的な上昇に転じた日本の不動産市場だが、薄氷を踏む感がある。

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