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消えゆく個人投資家
- 2019/1/11
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1860兆円の過半が預金で眠る 家計金融資産
「貯蓄から投資」は2018年も実現することはなかった。
1860兆円に膨らんだ家計金融資産の過半は預貯金で悠々と眠り続け、ソフトバンク上場も不発、アベノミクスにより6年続いた年間株価上昇も途切れた。
高齢化に歯止めがきかない今、バトンタッチを急がなくては個人投資家が「消滅」してしまう。
ソフトバンク上場の影響
12月19日に新規株式公開(IPO)したSB株は、初値から公開価格(1500円)を割り込み、1割強の損を抱える波乱のスタートとなった。株式市場から吸収した過去最高2.6兆円の出し手は9割方が日本の個人投資家だ。待機資金であるマネー・リザーブ・ファンド(MRF)以外の「ニューマネー」も預貯金などから動いた。
延べ90万人ものSBの株主。IPOで成功体験を得て、他も物色する順回転が生まれれば日本株市場の心強い援軍となる。逆に塩漬け化すれば、長らく相場の重荷となる「第二のNTT株」になりかねない。
折しも日経平均株価はSB上場の翌日に今年の安値を更新。7年ぶりに年間で下落することが確実だ。10月には一時、27年ぶり高値まで上昇したが、この間も個人投資家は売り続け、海外勢の買いに対し6年間で約27兆円を売り越した。
上がれば売り、下がれば買う「逆張り」と呼ばれる投資行動に加え、売りの底流には投資家の高齢化がある。高度経済成長やバブル経済という右肩上がりの原体験を持つ層が投資の表舞台から去りつつある。
1900万人の個人投資家 リスク資産の4割が70歳以上
日本の個人株主数は、1人で複数株持つ人の口座の「名寄せ」後で1900万人程度とみられる。
この個人投資家たちの年齢に関する正確なデータはないが、ある大手証券会社の平均年齢は「60代後半」。関西を地盤とするある中堅証券では70歳を超えている。
そもそも日本の人口の4分の1が65歳以上。
約1860兆円の家計金融資産の過半がこの層に集中し、さらにその半分は75歳以上が保有している。しかも株式や投資信託などのリスク資産を多く持っている。
投資の鉄則は「若いうちはリスクを取れ」だが、日本では逆。「リスク資産の比率が最も高いのは70歳以上」(野村資本市場研究所の宮本主任研究員)という。
野村資本市場研の推計では全体で約280兆円規模の家計のリスク資産の4割を70歳以上が保有するという。その額およそ110兆円強。かなりの部分は子どもなど次世代の運用に引き継がれず、ある日「蒸発」しかねない。
「先月は1本(=1000万円)、その前は3本。億(円単位)も珍しくない」。都内の住宅地勤務のある大手証券マンは語る。株や投信で運用していた顧客の預かり資産が一気に減少する例が増えているという。
相続に伴う「出金要請」の行く先
担当の顧客としばらく連絡が取れないと思えば、亡くなった後。
相続人がそのまま株や投信で運用してくれればいいが、分けやすさの利点からも現金化されがちだ。
預金は取り崩しで徐々に減るのに対し、株や投信は一気に減る特徴がある。「業界全体では(相続対象資産の)3割ほどが消えていく」との厳しい見方もある。
長期保有でリターンを育てる・投資家を育てる
投資の歯車を大きく回さない限り待つのは先細りだ。シニア層の資産を日米で比較すると、その差は歴然。日本の70歳以上の世帯が保有する金融資産額は、1994年からの20年間でほぼ横ばいだが、米国は3倍に増やしている。
米国株高という追い風が大きいが、可能にしたのが「株など値下がりリスクのある資産は長期保有してリターンを育てるという『常識』」(投資教育研究所所長・野尻哲史氏)。卵が先か、鶏が先かの議論だが、短期の値動きに一喜一憂しない投資家が増えれば株価上昇を支える。
時間を味方に付けられる次世代投資家にとって、下落は好機。
2018年に始まったつみたてNISAは、年内に100万口座を超えた。今年は、比較的大きな日本株投信に匹敵する1000億円規模の資金流入を生みそうだ。若者になじみの電子商取引(EC)や携帯電話の利用で得たポイントを充当する投資や、スマートフォンの操作で完結する少額投資など新サービスも広がっている。
適温相場に別れを告げ、貿易戦争が続く中で消費税増税も始まる19年。
逆風を跳ね返す「投資力」の育成に、残された時間は長くない。
この結果、金融資産の内訳は海外と大きく様相が異なる。
日本では現預金の比率が5割超なのに対し、米国は1割強、欧州が3割強。株式や投資信託などリスク資産は米5割弱、欧3割弱に対し日本は1割強にとどまる。
家計のお金を市場を通して企業などに回し経済を回す力が海外に比べ脆弱といえる。
政府は少額投資非課税制度(NISA)などを通じ、個人マネーの投資への誘導を急ぐ。金融界も最近は若年層取り込みに力を入れている。