東京の街コラム|第16回 団地問題と新陳代謝の必要性
高度経済成長時代の団地建設ラッシュの顛末は
昭和30年代に入り、住宅取得を支援する法律が施行されたのを受けて住宅開発が進みました。その象徴ともいえるのは、鉄筋コンクリート造りの「団地」でした。
それまでの「食べる」「寝る」が同じ部屋だった生活が分離された2DKという間取りに加えて、トイレ、バス、キッチンがありシリンダー錠がついた金属ドアでプライバシーが確保された住居には、入居希望者が殺到しました。
やがて都市部では団地建設用地が不足し始めて、昭和40年代に入ると山林を切り開いた場所に団地が建設されるようになります。これに合わせて鉄道やバス路線も次々と開通していきますが、最寄り駅からバス20分というような立地の物件も数多く建設されていました。
昭和30~40年代にこれらの団地を購入し移り住んだ20~30代のファミリー世帯は、現在子育ても終了し、老後生活を送る70歳代以上の人たちばかりとなりました。
現在これらの団地は老朽化が進み、住む人たちも寿命を迎えその数も減り続けています。
リノベーションなどを行い、若者を呼び込む努力が各地域でなされていますが、便利な都市部での生活を選ぶ人たちの方が多くなっています。
高度経済成長時代に若い世代が多く移り住んだ郊外の団地が、今や消滅の危機に瀕している状況は、現在人口増加が著しい東京23区の数十年後を危惧させるものです。
街が数十年の時を経ても、魅力あふれて人が集まり続けるためには何が必要なのかを考えてみましょう。
人は家を買うと引越しをしなくなり、街はやがて老齢化する
昭和30年代の団地ブームを見ればわかるように、人は一生のうちで家を買えばそこに定住する傾向があります。
お金持ちでもない限り、度々住宅を買い替えて引越しをする人はほとんどいません。
不動産会社も住宅広告を出すときは、「終の棲家」というように、死ぬまでそこに快適に住めるのが理想の住まいだとしてセールスをしています。
現在も高層マンション建設や宅地開発が進んでいますが、特定の地域が広い範囲にわたって開発され、人々が快適に暮らせるように商業施設や交通インフラ、公共サービスが次々と提供されて、その場所に新しく住む人たちがたくさん移動してきたとします。
街ができた当初は、住む人たちも20~30代の若い世代が多いのですが、これらの人たちが引越しをせず一生をその場所で過ごすとなれば、30年後、40年後にはそのエリアは高齢者の割合が高くなります。
もし若い世代が新たに移り住むことがなく、住民の新陳代謝がない場合、最初に移り住んできた人たちが寿命を迎える頃、この街はやがて住む人がいなくなってしまいます。
現在日本では、このような「消滅可能性都市」と指定されている場所が各地にあります。
東京23区も消滅の危機にさらされている
現在23区全体としては、人口が増えています。とりわけ若い世代の都内への移動が多く、子どもの数も多いので、街は活気にあふれています。しかしこのような光景は、23区全てにおいて見られるのではなく、場所によっては今後住む人がいなくなる可能性がある場所も出てきました。
現在そのリスクが高い場所は、人々から羨望を集めてきた「山の手」と呼ばれるエリアです。
東京都の23区内でも西側に数多く集まるこのエリアは、戦前から戦後にかけて、それまでの住居エリアをさらに開発しながら西方面に拡大してきました。当時は1戸あたりの住居面積が100坪というのも当たり前のようにありました。
その後30~40年を経て、移り住んだ親から子どもへと世代が移り変わった頃、土地は3分割、4分割するなどして小規模な宅地として分譲することで、新しい若い世代がその土地を引き継いでいました。
2代目世代が高齢者となった現在、土地はこれ以上細分化して住み続けることは不可能となり、3代目世代が家を建て直せば引き続き住めるものの、都心部にはそれよりも価格が安く生活に便利な機能を備えた高層マンションが続々と建設されています。
新しいタイプの住環境を選ぶ3代目の世代は、生まれ育った親の家を処分できずに空き家として放置しているケースが多くなっています。
このような23区内における空き家問題は団地問題と同じで、地域の衰退を招く現象としてこれから対処すべき課題となるでしょう。
街の発展には人々の「定住化」ではなく「新陳代謝」が必要
「定住できるまち」「一生をすごせるまち」が住みよい街という神話は、すでに崩壊しているといっても過言ではありません。
現在23区内で特に人口の増加が著しいウォーターフロントエリアは、区内でも比較的土地価格が安いことから、20~30代の若いファミリー世帯でも購入が可能な物件が多数あることが人口増加の一因となっています。
とはいえ、今後このエリアも地価が上昇し次の買い手がつかなければ、次世代の若い購入者からは敬遠されて人が移り住まなくなります。
現在住んでいる人たちも、引越しをしたくても物件の次の買い手がつかなければ住み続けるしか選択肢がなく、20~30年も経てば老人の街になってしまいます。
日本全体では人口は減少傾向にあります。それに反して現在23区で総人口が増えているのは、人々があえて住むのに魅力を感じた場所を選び移り住んでいるということです。
そして単純に新しい人が入ってきたというのではなく、その土地を去る人もおり、その結果、若い世代の人たちの比率が高くなっています。
このように現在人口増加率の高い23区の一部では、人の入れ替わりがとても頻繁に起こり若い世代の占める割合が高くなっているのです。
魅力ある街は、常に住む人の出入りが活発な新陳代謝が行われています。住む家の資産価値だけでなく、人の流動性も自分にとっての「住みよい街」選びのチェックポイントになります。
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