東京の街コラム|第36回 豊島区は独身男性の行く末が未来をひらく
「消滅可能性都市」へのチャレンジは始まったばかり
2014年5月、日本創生会議は将来の日本の人口予測を発表しました。
「全国1750の市区町村のうち半分以上が消滅する」
この内容はとてもショッキングなものでしたが、近年人口が増え続けている東京23区の1つ豊島区も「消滅可能性都市」としてリストアップされています。
豊島区は23区の西北部にあり千代田区、中央区、港区、新宿区と並んで副都心的な役割を果たしています。
現在も、東京の大都市にふさわしく埼玉方面の玄関口となる池袋には超高層ビル、また2020年には旧区役所跡地に開業予定の大規模商業施設の建設が進んでいます。
2010年度の国勢調査では人口密度が日本一となっています。特に結婚適齢期の独身男性が多く住んでおり、池袋の街が夜遅くまで人でにぎわっている様子がテレビでよく映し出されています。
誰もがその繁栄ぶりを認める豊島区が、なぜ消滅可能性都市になってしまったのか、そして自治体による「汚名返上」の対策が、今後の豊島区をどのように変えていくかが注目されています。
本当に消滅するのか 豊島区の現状
消滅可能性都市に指定された根拠は「国立社会保障・人口問題研究所」による日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)のデータが元になっています。
このデータから豊島区は2010年時点で、23区内で3番目に20歳未満の女子の割合が低かったために、将来子どもの数が増えにくい可能性があることや、区内への人口流入が減少し転出超過となることが予測されました。
またこの時期は、一時的に人口が減少しており、外国人が増えて治安が不安視されていたことも区のマイナスイメージに拍車をかけることになりました。そのため、2040年には消滅してしまう地域としてリストアップされてしまったのです。
もう少し詳しく見ると、豊島区は20代の割合は23区でトップですが、30代に入ると男性5位、女性11位となります。
30~44歳の結婚適齢期の性比は23区最高、つまり男性の割合が多く女性が少ない街となっています。
独身世帯が多いことを示すデータは、「一世帯あたり人員」は18位であること、「1住宅あたり延べ面積」、「1住宅あたり畳数」の2つとも21位であることから予測が可能です。そして持ち家世帯率は21位となっており、豊島区の大半の世帯が賃貸に住んでいることは明らかです。
2013年度の合計特殊出生率をみると、豊島区は23区で18位の0.99となっています。全国平均の1.43と比較すればかなり低い数字です。豊島区が子育て世代の女性にとって「住みたい」「産みたい」場所ではないことがわかります。
これは、豊島区内が「木賃ベルト地帯」と称される、木造賃貸住宅が多い地域の中にあり、家賃が安い住宅が多いことも要因の1つです。
独身女性の多くが目黒区や港区といった家賃が多少高くても充実したアーバンライフが実現できるエリアへ好んで移り住み、その結果、豊島区は住環境整備が進まないまま今日に至ってしまいました。現在は、この家賃の安さが外国人居住者の増加につながっています。
豊島区の1日の人の動きですが、区内の事業所に勤める人で他府県から通勤している人の割合は7位、都内他地域からは8位となっています。区内で就業している割合は16位、事業所数は16位、従業者数は9位となっています。23区の中で、「働きに来る場」とは言えない数字です。
これに対して池袋周辺に有名大学が多いこともあり、「他府県から来る通学者」の割合は、千代田区、渋谷区に次いで3位です。どちらかと言えば「学びに来る場」かもしれません。
豊島区が上位を獲得したものを紹介しますと、3位「飲食業・宿泊業の全事業所に占める割合」、5位「小売業の年間販売額」、3位「大型店舗の年間販売額」、2位「売り場面積」です。
5位にランクインした「池袋駅の年間乗車人員」でわかるように、この駅周辺に建ち並ぶ大型デパートや店舗がこの数字をたたき出しています。
以上のようなデータを見ていると、豊島区は「本当になくなってしまうのか」疑問に思えてきます。
実際に、豊島区の自治体は、住民基本台帳に基づくデータからは「その根拠はない」と結論を出しています。住民基本台帳のデータでは子どもの人口も増えており、今後の子育て世代の女性の人口も安定しているからです。
自治体の都市維持政策の成功は独身男性の定住化にあり
自治体は「消滅はない」という見解を示していますが、2014年に「豊島区持続発展都市推進本部」を発足させて、要因分析や今後の人口減少社会への対策を検討し始めています。
現状を調査した結果「区外に引っ越す子育て世帯が多い」事実が明らかになりました。妊娠を届け出てから出産を経て、子どもが3歳になるまで区内で子育てをする世帯は全体の69.2%で、23区内で最低の割合であることがわかったのです。
自治体ではこの現実をふまえ、子育て世帯の定着度を高めるために単なる少子化対策ではなく、「女性施策」に焦点をあてて、子育て世代だけでなく高齢者も住みよい街へと転換を図ろうとしています。
このような自治体の努力は、少しずつ豊島区のイメージアップにつながっています。某住宅情報サイトの「2014年版 みんなが選んだ住みたい街ランキング 関東版 20代~40代編」では、池袋が中目黒や自由が丘を上回る総合3位、シングル層では2位、ファミリー層5位にランクインしました。
もともと豊島区では独身男性が多く、この層が結婚してこの地にそのまま住み続けてくれれば地域に子どもも増え、街も「子育てに適した街」としてイメージチェンジが実現できるかもしれません。
最新東京の街コラム
- >> 第44回 住みよい街だが高齢化と向きあい、ビジョンにかける北区
- >> 第43回 昭和を代表する下町荒川区
- >> 第42回 江東区は東京オリンピックを活かせるか
- >> 第41回 犯罪と向き合う街足立区
- >> 第40回 学問の街文京区は人口増加を続ける
- >> 第39回 墨田区はおかみさんの街として主婦の就業率は3位
- >> 第38回 助け合い精神で成り立つ板橋区
- >> 第37回 大田区の未来は大森エリアが左右する
- >> 第36回 豊島区は独身男性の行く末が未来をひらく
- >> 第35回 コンパクトにまとまる台東区
- >> 第34回 一戸建てが実現できる街葛飾区
- >> 第33回 家族層が多く、こどもが多い街江戸川区
- >> 第32回 杉並区は音楽とともに
- >> 第31回 東京の田舎、練馬区
- >> 第30回 都市改造事業で中央区の公園事情
- >> 第29回 人口5万人を超えた千代田区の未来
- >> 第28回 若者の未婚率No1の街、中野区
- >> 第27回 目黒区は女性の街。住みたい区は上位
- >> 第26回 世田谷区の特徴「低就業率」
- >> 第25回 港区は所得水準トップの街として東京のかなめ
- >> 第24回 品川区の発展は商店街にカギ
- >> 第23回 渋谷区は企業依存の末人口は増加傾向
- >> 第22回 新宿区はひとり暮らしと外国人の街
- >> 第21回 年収や職業から見る東京23区
- >> 第20回 高齢者就業率に見る街の住み心地
- >> 第19回 東京都内の活気のある町は商店街がポイント
- >> 第18回 医療環境が充実の東京23区はどこ?
- >> 第17回 こどもが増える港区・品川区と減る杉並区・中野区
- >> 第16回 団地問題と新陳代謝の必要性
- >> 第15回 東京の下町エリアが人口増加の中心に
- >> 第14回 高齢化が下がった都心3区の裏側
- >> 第13回 少子化の裏に隠された東京でのこども人口
- >> 第12回 東京23区はどんな街?住みよい街を探る
- >> 第11回 マンション経営を新宿区でするなら年配向けがオススメ
- >> 第10回 渋谷区のマンション経営のオススメの理由は『女学生』にあり
- >> 第9回 六本木・虎ノ門エリアのマンション経営はビジネスマン向けを狙え
- >> 第8回 マンション経営がお得な竹芝エリアの情報と特徴について
- >> 第7回 品川区エリアのマンション経営は女学生をターゲットに
- >> 第6回 マンション経営で池袋エリアを狙うなら参考にしたい数字
- >> 第5回 丸の内エリアのマンション経営はビジネスマンのセカンドハウス需要を狙え
- >> 第4回 単独世帯が増える東京
- >> 第3回 人口増加が見込まれる東京とマンション経営
- >> 第2回 東京発グローバルイノベーション特区
- >> 第1回 アベノミクスと再開発