東京の街コラム|第38回 助け合い精神で成り立つ板橋区
自然の恵みと時代の先をいく区政が見事にマッチした工業の町 板橋
東京23区の北西部にある板橋区は、武家時代は宿場町として江戸への出入り口の役割を担い発展をしてきました。
そして区内には、荒川、新河岸川、石神井川が流れ、湧水地が多くあったため工業用水が多く手に入りました。これらの河川は、物資の大量輸送にも利用され板橋区の工業化が進みました。
関東大震災後に被災した都心の工場が区内へ移動してきたことや、太平洋戦争終結まで陸軍の兵器工場や火薬庫があったことで、板橋区は都内最大の軍需産業基地の役割を担い、その結果、工業がめざましく発展しました。
このような環境の元で、現在の板橋区の地場産業となった光学機器や精密機械が生まれ育っていきました。
現在板橋区は23区で唯一内陸部に工業専用地域を持ち、製造品出荷額が大田区を上回る1位となっています。
工業化が進む一方で、太平洋戦争後の陸軍用地跡には有名大学の病院が次々と誘致されていきました。当時は批判もあったこの施策ですが、日本の医療技術は成長産業の核となり、高齢化社会における医療ニーズの高まりにも見事にマッチしました。
自然の恵みを活かした産業振興と先を見据えた区政が、現在衰退しつつある商工業の活性化や加速する少子高齢化に伴う人口減に歯止めをかけられるかが、板橋区の今後の課題となっています。
データでみる こんなにすごい板橋区の工業
東京都の工業地域といえば、真っ先に思い浮かぶのが京浜工業地帯ですが、内陸部の板橋区でも、その豊富な水源を利用し明治時代から工業が地場産業として発展してきました。
また関東大震災後に板橋の北部が「工業甲種特別地域」(危険物製造が可能な地域)に指定されたことも追い風となり、広い用地を求めて都心から次々と工場が移転してきたこともあって、板橋区の工業化が加速しました。
戦後までは軍部管轄の兵器工場、火薬倉庫があり、軍部が発注元となり多くの製品が作られました。
東京23区内で板橋区が工業部門で1位を獲得しているものは、次の通りです。
■製造品総出荷額
■印刷業(全国2割以上のシェア)
■鉄鋼業出荷額
■業務用機械出荷額
■情報通信機械出荷額
■精密機械器具製品出荷額(23区全体の50%)
■従業者一人当たりの出荷額:2,613万円
■1事業所あたりの従業者数と製造品出荷額
これらの実績を出す板橋区の工業は、同区内に住む人たちによって支えられています。区内で働く人の割合は23区中5位、都内他地域から板橋区への通勤者の数は19位、板橋区内の鉄道駅の乗車人員は21位というデータを見れば、従業員の大半は工場近くに住む人たちが多いということがわかります。
工業以外に、食品やスナック菓子メーカーの本社や工場もあります。
板橋区の暮らしは「庶民レベル」
東京23区は、区によって住む人の年齢や1世帯あたりの人数、物価などに差があります。板橋区はどのような特徴を持っているのでしょうか。
板橋区に住む人を見ると、15~24歳の若者の割合が23区中2位となっています。これは、区内にある大学の数が7位であることが影響していると考えられます。
板橋区内で働く人は、その区に住んでいる人の割合も23区中で5位と高いのですが、夜間人口に占める企業・団体の役員の比率および管理的職業に従事する人の比率は20位と少なくなっています。住民の多くは高待遇の役員よりも中間管理職以下の従業員レベルが多いことがわかります。
2012年度の1世帯あたりの所得水準が23区中17位352万円であることをみればそれがよくわかります。また生活保護受給者の数が2番目に多いことも特徴の1つです。
板橋区での商業を支える商店街は、かつて日本一と称された規模を持つ大山商店街や板橋緑宿9商店街が有名です。この2つの商店街は1kmを超える規模で、このほかにも500mクラスの商店街が5カ所ほどあります。
自治体は「区民が選んだ板橋のいっぴん」を公募し、区内商業の活性化のサポートを行っています。
自治体と住民の連携で進む板橋区の未来
水源に恵まれて工業を中心に発展した板橋区は、近年全国的な人口の減少や高齢化の影響を受け、産業の衰退が懸念されています。自治体は企業立地支援政策などを打ち出し、産業発展のサポートを行っています。
また区を5地域に分け、各地域の特性を活かした街づくりをすすめています。街づくりにおいて、自治体は区民との相互協力を重視しながら政策を進めています。
例えばパブリックコメントやモニター制度を導入し、区民の意見を取り入れながら区政に反映させる努力をしています。
そして災害発生時、板橋区は内陸部にあることから、首都直下地震の被害想定ではその被害が比較的少なく23区で最も安全率が高い区と評価されました。これを受けて、板橋区ではさらに安全性を高めるべく、緊急時には私有地を開放して避難路の確保を行うといった住民を巻き込んだ災害対策を進めています。
先を見据えた区政の実現には、区民と自治体の連携が不可欠です。
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