東京の街コラム|第42回 江東区は東京オリンピックを活かせるか
いびつな人口増加と急激な都市化に加わるオリンピック開催

東京オリンピックが2020年に開催されることが決定しました。
オリンピックの施設建設や交通インフラの整備などが進み、東京へのヒト・モノ・カネがさらに集中することが予想されています。
江東区には、このオリンピックの開催競技場予定地が区内にたくさんあります。中でも豊洲エリアは、大規模な再開発が進み不動産市場としても期待されています。
17,000人を収容する選手村も隣接の中央区に建設される予定で、跡地が住宅として販売される予定となっており、現在江東区のウォーターフロントエリアはその市場価値が急上昇中です。
江戸時代より埋め立てによってその面積を広げてきた江東区は、用地の増大と共に産業も発展してきました。
23区全体の産業の中でも印刷業、運輸業の江東区が占める割合は高くなっています。
そして湾岸エリアの埋立地増大と共に高層マンション建設が進み、多くのファミリー層の人口流入があり、区民の平均年齢も43.6歳と若く、2005~2010年の人口増加率も23区中5位となっています。
終戦直後1948年の面積が22.5㎢だったのが、2015年度では40.2㎢、2000~2010年の間での区内人口増加率が22.3%、湾岸エリアに絞れば88.7%の人口上昇という驚異的な区の規模の拡大に、自治体の対応も遅れ気味となっています。
オリンピックの受け入れ態勢の確立と住民の暮らしをサポートする区政に、全国から関心が集まっています。
工業地から住宅地へ 湾岸エリア埋立地の変貌
1882年(明治15年)、江東区の面積は11.4㎢しかありませんでした。2015年現在は40.2㎢、130年を経てその面積は3.5倍となりました。
江戸時代、江東区付近の市街地は埋立に適した広い低湿地帯で、利根川水系を利用した水運業の要所となり問屋取引を中心に発展しました。また江戸の近郊農地として野菜も栽培されていました。
明治から大正にかけて工業が目覚しく発展し、セメントや紡績、砂糖工場などが建設されています。関東大震災で多くの建物が消失しましたが、復興事業で区画整理が進みました。
この頃から、工業の発展だけでなく集合住宅の建設も始まっています。
終戦を経て現在の江東区に再編されてから、急激な人口増加に対応すべく都営住宅の建設が進みます。台風による多大な被害の教訓を活かすため、水害対策も大々的に行われました。
1950年代後半から工場の区外移転が進み、住宅建設が活発化します。水害対策も一段落し、地下鉄の開通など交通アクセスも向上しました。
そして現在、江東区は2010~2035年の25年間で最も人口が増加する区と予測されています。
湾岸立地を活かして栄える産業

現在、工業地から住宅地へと変わりつつある江東区ですが、湾岸エリアという利便性を活かし、工業だけでなく卸・小売業・サービス業・飲食・宿泊業などの第3次産業や昔ながらの運輸業も盛んに行われています。
工業については、その規模全体は縮小傾向にあるものの、2010年時点では、23区内で工場数が7位、従業員数5位、出荷額3位と依然トップクラスをキープしています。
工業の中では印刷・印刷関連業務の事業所数は23区中最多の1位で、その生産高は23区全体の30%を占めています。
「木場の街」のとして、木材・木製品の事業所数と生産高は23区で共にトップとなっています。
運輸業は江東区の全産業に占める構成比が、2004年度統計では7%、従業者数は12%となっており安定しています。
そして東京港の港湾施設の多くは江東区内にあり、物流拠点が集まっていることから運輸業も活発に行われています。
多子高齢化に挑む江東区の今後の課題
埋立による区の面積の増大で住宅開発が進み多くの人たちが移り住んで来た江東区は、多子高齢化という現象を引き起こし、自治体の政策が追いつかない状況を生み出しました。
2000年以降、高層マンション建設ラッシュに伴う若年ファミリー層の大量流入で、江東区では小学校の建設が追いつかなくなり2004年に「マンション建設計画の調整に関する条例」を出しました。
これは、3階建て20戸以上の住宅の計画の事前届出を義務付けるもので、学校などの公共施設の整備が追いつかない場合は、マンションの建設中止や延期、見直しを求められるものです。
後にこの規制はその一部が緩和されましたが、出入りの激しい単身世帯が住むワンルームマンション建設の規制は存続しています。
日本全体が少子高齢化社会に突入し、江東区の福祉政策にも多くの課題を投げかけています。2011年のデータでは、23区中8番目に高齢者が多く、高齢化率は11番目の高さとなっています。
また年少人口も増えており、保育サービスや学校建設も急がれています。この結果、江東区の一般会計における民生費の割合は43.7%と突出していますが、未だ保育所の待機児童数の減少や高齢者の生活支援の充実には至っていません。
これに加えて、東京オリンピック開催のために建設された競技会場の有効利用についても、区政の判断が住民の暮らしやすさに大きく影響する可能性があります。
オリンピック開催の中心地になる江東区は、オリンピックそのものの成功よりその後の街づくりも見据えた区政に注目が集まっています。
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